金属3D積層造形について
金属3D積層造形は、“アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing、[通称AM])”あるいは“3Dプリンティング”と呼ばれる金属加工技術の一つで、3D-CADなどの3次元データをもとにして、スライスされた2次元の金属粉末等の層を一層ずつ積み重ねていくことにより、3次元の造形物を製造するものです。“金属3Dプリンタ”は、本技術における装置名として使われます。
本技術では、切削や鋳造などの従来の加工法では難しい3次元複雑形状品の加工が可能で、IoT(Internet of Things;モノのインターネット)などとの整合性が高いため、次世代の加工技術として注目されています。
近年、アメリカやヨーロッパ、中国などでは本技術の研究開発のスピードが目覚ましく、日本でも研究開発が急がれています。
金属3D積層造形の特徴
金属3D積層造形には、主に次のような特徴があり、これらを活用することで、部材の軽量化などによる高機能化や一体化成形による製品の製造期間の大幅な短縮やコストダウン、材質だけでなく構造も変化させた新たな機能材料の創製などが可能となります。
他の加工法では難しい3次元複雑形状品の製造ができる
3D-CADなどの3次元データから直接製品を造形できることから、鋳造や切削などではできなかった3次元複雑形状品が製造できます。
表面形状だけでなく内部構造も表現することができます。
ラティス構造体が製造できる
非常に細かなラティス構造(格子状の構造)の構造体を形成することができるため、軽量化、断熱効果、生体適合性などの機能を効果的に活用することができます。
これにより航空宇宙分野における軽量化部品、産業機器分野における熱交換器や医療分野のインプラントなどに適用することができます。
傾斜構造・複層構造体が製造できる
内部と外部の素材が異なったり、複数の素材の組成が連続的に変化し組み合わされた構造体の造形が可能です。
トポロジー最適化により設計された製品が実現できる
“トポロジー最適化”は、シミュレーションを繰り返すことで最も効率のよい形態や形状を設計することのできる、自由度の高い構造最適化手法です。
3Dプリンタが登場する前は、トポロジー最適化により設計されたものを造形する手段がありませんでしたが、3Dプリンタの登場により、人が考えつかないような新しい構造の製品を造形することが可能となりました。
最近では航空宇宙分野をはじめとして、いろいろな分野での適用が始まっています。
金属3D積層造形の造形方式
積層造形技術(Additive Manufacturing)は金属だけでなく、石膏や樹脂、砂、セラミックスなどにも用いられている技術です。造形方式には主に次のものがあります。
これらのうち、金属の積層造形に用いられる代表的な加工方式は“パウダーべッド方式”と“デポジション方式”です。 “バインダージェッティング方式”も最近注目されている方式で、この他にも新たな方式が提案されてきています。
パウダーべッド方式(PBF:Powder Bed Fusion)
金属粉末を敷き詰め、造形する部分にレーザや電子ビームを照射し溶融・凝固させ積層させる方法です。複雑形状の高精度製品を造形するのに向いています。
金属積層造形においては最もよく利用されている方式で、航空宇宙分野では、ジェットエンジンの噴射ノズルやタービンブレード、ロケットのエンジン部品などへの適用が進むといわれています。
また、医療分野では、カスタムメイドが可能なためインプラントへの適用が進んでいます。さらには、自動車分野における試作品や小ロット部品、産業機器分野におけるタービンなどの部品への適用が進みつつあります。
※近畿大学次世代基盤技術研究所には、このパウダーベッド方式の金属3Dプリンタ(SLM Solutions社製SLM280HL)や、国家プロジェクトにおける要素技術研究機も設置されています。
デポジション方式(DED:Direct Energy Deposition)
金属などの材料粉末とレーザまたは電子ビームを造形部分に同時に照射し、溶融・積層して造形する方法です。既存製品の補修や、比較的単純な形状で大型の造形品の製造に向いています。
ジェットエンジンのブレードや種々な部品の補修に利用されています。また、ロケットエンジンの配管部品などへの適用も進められています。
最近では、溶接と同様にアーク放電を利用する方法も注目されています。
バインダージェッティング方式(Binder Jetting)
金属粉末などにバインダー(液体結合剤)を噴射して選択的に造形する方法です。現在は主に砂を材料としたものに利用されていますが、最近では金属粉末へも適用され始めています。
金属粉末射出成形(MIM)法のように成形体を成形した後、バインダーを除去し、焼結して造形体を作製します。
パウダーべッド方式やデポジション方式に比べ、密度は低くなりますが、微細形状の小型部品に向いています。
金属3D積層造形の適用例
現在、金属3D積層造形による製品への適用は、航空宇宙分野や医療分野を中心に行われています。また、自動車分野における試作品や産業機器分野におけるタービンブレードや、機能性金型への展開も図られています。
航空宇宙分野
ジェットエンジンの燃料噴射ノズルやタービンブレード、ロケットエンジン部品などへの適用が検討されています。
医療分野
人工股関節用臼蓋コンポーネントやひざ関節用インプラントなど種々な部位のインプラントへの適用が行われています。
自動車分野
従来は切削加工や鋳造により行われている部品試作品の作製に活用されることにより製作時間の短縮と、コスト削減が可能となっています。ドイツの自動車メーカーでは修理部品への適用も始まっており、今後さらに電気自動車導入への動きが加速するにつれ、適用分野も増えるものと予測されます。
産業機器
タービンや熱交換器への適用など幅広い製品への適用が検討されています。軽量で剛性の高い製品や複雑形状の製品の製造、多数の部品からなる製品の一体化成形により、製造時間の短縮とコスト削減が可能となります。
金型
射出成型用金型において最適な冷却水管の配置、深い溝や高いリブの配置など、従来の切削加工では難しい加工が可能となることで、従来の金型と比べ製造期間を大幅に短縮できる利点があります。
まとめ
金属3D積層造形は、現状では造形の速度や精度、さらには大きさなど多くの課題を抱えていますが、“ものづくり”における設計から製造における考え方を変革しつつあり、従来の加工法では不可能であった形状や機能を有する製品の製造を可能としてきています。
また、本技術は、デジタルマニュファクチャリング技術であるため、IoTやAIとの整合性もよく、Autodesk社、Siemens社やDassult社などのCADメーカーを中心に新たな“ものづくり”のプラットフォーム化(基盤づくり)が進んでいます。
金属積層造形の造形例